世界中が熱狂する“祭典”Nürburgring24 その過酷さゆえ自動車開発の聖地としても有名なNürburgring。今年もグリーンヘルと呼ばれる過酷な北コースが牙をむく。

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 ─ 世界で最も偉大な草レース ─
 そんな異名を持つNürburgring24時間レース(以下「Nür24」)が5月28-29日に開催された。この“偉大な草レース”は、排気量や駆動方式などによって細かくクラス分けがされているものの、ワークスやセミワークスなどのプロフェッショナルチームからプライベーターまでもが一堂に会し順位を競う、通常では考えられないレギュレーションで行われる。草レースらしく参加の間口が広いため、年によっては200を超えるほどのチームが参戦し、20万を超える観客を動員するという。その観戦スタイルも自由だ。テントやキャンピングカーが所狭しと並び、あっちこっちでビール片手にバーベキュー、ドンドン打ち上げられる花火、そして鳴り止まない大音量の音楽にダンス...これらが当たり前のように行われてる。

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 そんな観客のブッ飛んだ楽しみ方にド肝を抜かれつつも、祭りともいえるこの雰囲気を作り出せるのは草レース特有の懐の深さだと感じさせる。
 とはいえレースのレベルは非常に高く、総合優勝を狙うようなハイクラスには超一流のチームが多く参戦している。特に花形であるSP9クラスはFIA-GT3規定に準じたレーシングカーが集まり、最高峰のレースを展開する。そんな超一流のチームとアマチュアが一緒に走るのだから、やはりどこかブッ飛んでいると感じずにはいられない。ミドルクラスのマシンは道を譲らなければいけないし、ハイクラスのマシンはラインを塞がれているなんて場面がいたるところで見られる。それなら何も一緒に走らなくても...とはヤボである。地元ファンから言わせると「それが醍醐味!」。
 ハイクラスのマシンは1周におよそ30台ほど抜き去る必要があるらしいが、実際にパッシングをしながら前の車を抜き去っていく姿は圧巻だ。...なるほど、地元ファンの一言に納得である。
 コースは、F-1も開催されるGPコース(5km)と北コース(ノルドシュライフェとも呼ばれる20km)の全25kmで構成されており、特に北コースは最大300mの高低差や170を超えるコーナー、さらには路面の狭さなどその過酷さを極めている。「北コースを走れればどんな道でも大丈夫」といわれるほどで、タイヤや自動車開発の聖地としても有名だ。こんなところを24時間、しかもプロ・アマ問わず一斉に...まったく恐れ入る。

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 44回目を迎えた今年の見どころは、通算5度の総合優勝を誇る超名門マンタイレーシングや昨年総合3位のファルケンモータースポーツを有するPORSCHE勢、さらには2013年以来の勝利を目指すMercedes AMG勢、 Z4 GT3からM6 GT3に乗り換えて臨むBMW、そして3連覇のかかるAUDI R8などドイツ4大メーカー。日本勢では昨年総合9位のNISSANニスモGT-R、クラス優勝の連覇がかかるSUBARU WRX、Nür参戦10年の節目を迎えるTOYOTA GAZOO RacingのLEXUS勢などが挙げられるだろか。いやいや忘れてはいけないのが、アイドル枠のオペル・マンタ。

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2011年のレギュレーションが改正され、製造後10年以上経過しているマシンは参加出来ないのだが、このマンタだけは参加を許可されている。Nür24の名物車だ。(昨年はクラス優勝も成し遂げたほどの実力車)
 因みにKW装着車は、参戦台数およそ160台中78台と今年も圧倒的な装着率を誇る。前述したマンタイレーシング、ファルケンモータースポーツ、名物車オペル・マンタなんかの足元もKWが支えている。

 さて、多くのファンが待ちわびる中、注目マシンが次々とスタートして行く...波乱の幕開けである。
 順調にレースが進んだのも束の間、1時間も経たないうちに何やらピットが慌ただしくなる。これはただ事ではないとレースが映りだされているモニタに目をやると北コースが混乱状態に!?

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 スタート前には顔を出していた太陽が不気味な雲に覆われ、雹を含んだゲリラ豪雨に見舞われているのだ。瞬く間に水たまりや雹が路面を埋め尽くし、急激なコンディションの変化に対応できないマシンがコントロールを失い、(ほとんどマシンがスリックタイヤだった)カーリングの石のように滑りながらガードレールへと吸い込まれていく。映像を見られた方もいるかと思うが、あの状態はさすがにレースどころではない。すかさず赤旗が振られ、約3時間半の中断を余儀なくされた。豪雨も落ち着きレース再開のめどは立ったが、直前にまた雨が強くなるという悪コンディションの中でのリスタートとなる。しかし、ドライバーには申し訳ないが、水煙を上げて車が駆け抜ける姿はなかなか幻想的である。
 レースは多少の入れ違いはあるが、ポールを獲った#9を筆頭に#88/#29/#4のAMG GT3と、#18のM6 GT3あたりが牽引する序盤となる。特に注目していたKW装着車#911/#912/#44/#12/#21のポルシェ勢は少し出遅れた感があるが、ここは難攻不落のNür!まだまだ何が起こるか分からない。

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 日も暮れてきた中盤には、トップ争いをしていた#18が、フロントタイヤ付近から煙を出し立ち往生。これによりAMG勢が上位を独占する形で以降のレースが展開されていくことになる。このAMGの牙城を崩せそうなのは、序盤から中盤にかけて驚異的な追い上げをみせ5位にまで順位を上げた注目の#912。9台をごぼう抜きである。これから本格的な夜間走行に入ることに加え、天気も不安定。個人的には今後に期待が持てる展開となった。

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中盤までの注目マシンの順位を確認しておこう。
1.#88 AMG GT3
2.#4 AMG GT3
3.#30 AMG GT3
4.#9 AMG GT3
5.#912 911 GT3 R

11.#35 GT-R GT3
19.#44 991 GT3 R

 翌朝、再びNür。昨晩凄じいパフォーマンスをみせた#912は5位を快走している。夜間走行に期待していたが、上位のAMG勢が安定した走りをみせているため順位に大きな変動はない。どうやらこのまま終盤を迎えそうだ。
 残り5時間を切ったころだろうか。相変わらず安定した走りをみせるAMG勢が1-4位までを独占する中、再び雨が降り出す。この雨にAMG勢の牙城を崩すチャンスとイキり立ったチームは多いのではないだろうか。かくいう筆者もドラマが生まれるのではないかとワクワクしていた。上位陣からすと、難しい終盤になることは明らかだ。そして、可能性が高いのは5位を走っている注目の#912だろう。と、期待を胸に順位表に目をやると「#912の名前がない?」つい先ほどまでは確かに5位に名を連ねていたのだが!?聞くところによるとマシントラブルで無念のリタイヤ...原因は不明だそうだ。表彰台も狙えると期待していただけに落胆を隠せない。筆者の中では特別なチームだっただけに残念な結果だが、ここまで夢を見せてもらったパフォーマンスは賞賛に値する。しかし、通算5勝を誇る名門マンタイでもこんなことが起きえるのだからNür24はやはり過酷だと改めて痛感した。

 いよいよ長きに渡り熾烈な戦いを繰り広げてきた2016 Nür24も大詰めを迎え、優勝争いは完全にAMG勢に絞られた感がある。
 残り3時間、痛恨のペナルティで#88がトップ争いから脱落し、覇権を賭けた争いはいよいよ#29と#4の一騎打ちに。残り1分を切り、トップを快走していた#29がそのままチェッカーを受けるかと思われたが、#29と#4ともに30秒ほどを残して次の周回へと突入する。これにより、この最終ラップで先に帰ってきた方が優勝という近年稀に見る白熱した展開となった。テールtoノーズで攻めぎあう両マシン。直後にドラマは起きた。北コースで抜き去るのは困難と判断したのか、後ろを走っていた#4がGPコースのコーナーでインをつき逆転。そのまま逃げ切りトップチェッカーを受け劇的な戦いに幕を下ろした。

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最終的な順位は次の通り。
1.#4 AMG GT3
2.#29 AMG GT3
3.#88 AMG GT3
4.#9 AMG GT3

9.#44 991 GT3 R
11.#35 GT-R GT3
13.#21 911GT3 R
16.#12 991GT3 R
20.#106 WRX STI
24.#36 RC-F

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 タフなコンディションで多くのリタイヤが出る中、注目のKW装着車は#44の991 GT3Rが総合9位、#21の911 GT3Rが総合13位、#12の991 GT3Rが総合16位に加え、多くのマシンが見事にクラス優勝と完走を成し遂げた。
 日本勢では#35のGTR GT3が総合11位、#129のWRX STIが見事にSP3Tクラス連覇(総合20位)、#36のRC-Fが総合24位など大健闘を見せてくれた。ちなみにNürの名物車オペル・マンタは無念のリタイア。クラス連覇がかかっていただけに残念だが来年のリベンジに期待したい。

 豪雨によるクラッシュや中断、最終ラップの劇的な幕切れ、そして強さをみせたAMG勢など...多くのみどころがあった今年のNür24。厳しい結果となったPORSCHE、BMW、AUDIのメーカーやモータースポーツチームは、もちろんこのままでは終われないはずだ。そしてMercedes AMGは、ライバルたちを押しのけ覇権を守れるのか。来年はより一層プライドをかけた熱い戦いがみれると思うと、今から楽しみでしかたがない。最後に2日に渡り熱い戦いを“魅せて”もらった全てのチームに最大級の賛辞を送りたい。

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