世界一過酷な24時間 マンタイポルシェが魅せたプライド

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 ニュルブルクリンク24時間耐久レース(以下「ニュル」)において、伝説的なチームが存在するのをご存知だろうか。
 ニュル初参戦となる2003年にいきなり表彰台に立ち、世界一過酷と称されるこのレースを5度も制した「マンタイ・レーシング」の存在を。
 今では数多の功績が認められポルシェのワークスチームとしてル・マンで知られるWECやVLN耐久シリーズなどで活躍している。
 そんな超名門チームが今年のニュルで圧巻のパフォーマンスを“魅せ”7年ぶり6度目の栄冠に輝いた。もちろん歴代最多優勝だ。

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 このマンタイと深い関わりを持ち、パートナーとして歩んできたサスペンションメーカーが何を隠そうKWである。世界に十数台しか存在しない7ポストリグでのシミュレーションや実走行などを重ね、マシンにとってベストなアシを二人三脚で模索し続けている。前人未踏の4連覇を果たしたマンタイ黄金期に装着していたサスペンションがKWだったことをみても、その強固な信頼関係が伺える。
 そういえば以前に、マンタイ・レーシングの創設者で、自身もドライバーだったオラフ・マンタイ氏がKWのサスペンションを『ストローク量があって、よく動く足』と評していたと聞いたことがある。なるほど、確かに“人”に置き換えてみてもサスペンションにあたる膝が柔軟じゃないとその機能はフルに発揮できない。
 足回りはガチガチに固めてなんぼと思いがちだが、実はそうではない。目から鱗の方も多いと思うが、荷重をしっかりコントロールし、ダンパーを積極的に動かしてタイヤを接地させることが大事なのだ。もちろんストリートユースでも同じことが言えるが、特にニュルのようなバンピーな路面では、よく動く足は欠かせない。この辺りの考え方がマンタイとKWが共有する大事なポイントなのだ。
 無論、今年のニュルに送り出された3台のマンタイポルシェ911 GT3 RにもKWコンペティションがインストールされている。

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 さて、そのニュル。
 ポールを獲ったマンタイの911号車と2番手につけたファルケンの44号車(共にKWを装着した911 GT3 R)、ブラックファルコンの4号車(AMG GT3)あたりがレースを引っ張る序盤となる。
 順調にトップを快走していた911号車だが、現地時間AM2:00くらいのナイトセクションで路面のオイルにタイヤをとられクラッシュ。44号車も何かのトラブルなのか順位を下げる。正直ワンツーフィニッシュを期待していただけに、残念でならなかった。

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 しかし、代わりに序盤のパンクをものともせず驚異的な追い上げをみせたマンタイの912号車(911 GT3 R)がトップに躍り出る。もちろんKW装着マシンだ。
 以降、912号車と4号車が熾烈なトップ争いを演じる展開となる。
 時間にしてちょうど半分、12時間くらいを過ぎた辺りだろうか、雷鳴を轟かせニュルが牙をむき始める。瞬く間にヘビーウェットとなり後続車の順位が激しく入れ替わる中、雨の影響をものともせずトップ2台は安定した走りをみせる。
 残り4時間を切ったあたりに濃霧がさらに深さを増し、まさに一寸先は“闇”ならぬ“霧”状態に。間もなくして、レッドフラッグが振られ中断へ。さすがにこの霧では危険すぎるという判断だ。
 おおよそ2時間の中断を経て再スタート。
 20時間を超える長い闘いを繰り広げられていたが、中断のお陰でニュルの覇権を賭けた闘いは残り1時間30分のスプリント勝負となった。

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 再開後も雨は強さを増し、ワンミスがクラッシュに繋がる悪コンディション。他のマシンがハイドロに苦しむ中、トップ争いをする2台は安定した走...いや、異次元の走りをみせる。テールtoノーズでせめぎ合う神がかったパフォーマンスは他を圧倒し、あっという間に3位以降を突き放す。それにしても、あのコンディションでなぜあんな走りが出来るのか、正直衝撃である。
 残り1時間、均衡を打破すべく2番手を走る912号車がラインをアウトに変えてブレーキング勝負に持ち込みコーナーへ。イン側の4号車がオーバースピードで膨らみラインがクロスするが、お互い譲らず接触。ハーフスピンする4号車に対して912号車はすぐさま体勢を立て直しトップを奪い、そのままチェッカーを受け、ニュルの覇権を手にした。

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 ポルシェやマンタイ・レーシング、そしてKWにとっても最高の結果で幕を閉じたわけだが、この好成績を語る上で見逃せない事実がひとつある。
 それは、総合優勝した912号車をはじめ、好成績を収めたKW装着マシンの多くが「コンペティション4A」を採用していること。
 これはプロレース向け新型サスペンションなのだが、今までKWでは「伸び側」と「縮み側の高速域と低速域」の3方向からの減衰設定ができるコンペティション3Aが最上位モデルとしていた。しかしこの新型は「伸び側の高速域と低速域」と「縮み側の高速域と低速域」の4方向からの減衰アプローチを可能にするのだ。(ここまで来るとどんな減衰力も出せそうだ^ ^;)
 マンタイが送り出した3台のポルシェにはフロントが3A、リアに4Aが採用されている。
 もちろん、3Aを4Aに変えたから結果が出たと言いたいわけではない。
 チームスタッフ、ドライバー、マシン、そして運。この要素が噛み合わないと、優勝はありえない。ただ、特にニュルのようなタフなコースはマシンの仕上がりが重要になってくる。その一端をKWが担ったファクトは誇りであり、メーカーとして次なるステージへと繋がる重要なポイントなのである。

 因みに今年は150台がエントリーされが、総合優勝を狙うSP9クラス(FIA-GT3規定に準じたレーシングカーのクラス)での8台を含め、74台もの足元をKWが支え、全24クラス中16クラスで優勝を成し遂げた。その優勝率は実に67%と驚きの数字を叩き出したのだ。

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 そのひとつにAMG GT4(66号車、75号車、190号車)という注目車両がある。
 ご承知の方も多いと思うが、昨今のモータースポーツ界では、インフレしすぎたFIA-GT3マシンに変わり今後はGT4が主流になっていくとも囁かれている。そう、かつてのGT1やGT2と同じように...。実際に各自動車メーカーからGT4マシンが続々と発表されている。
 この注目のカテゴリFIA-GT4の規定に準じてメルセデスAMGが作ったレーシングカーが今回ニュルに登場した前述の3台というわけだ。このAMG GT4にはKWコンペティション2A EXRが純正採用されており、SP10クラスの66号車、75号車はワンツーフィニッシュ、SP8Tクラスの190号車は2位に9周差をつけるパフォーマンスでクラス優勝(総合22位)を成し遂げた。
 メーカー直系のレーシングカーへの採用はKWテクノロジーの高さの証明であり、四半世紀以上に及ぶ経験の賜物なのだ。今後日本でも登場するであろう、このマシンの活躍にぜひ注目いただきたい。

 さて話を戻し、ここ数年のニュルではアウディやAMG勢に苦杯をなめさせられていたポルシェ勢だったが、マンタイ・レーシングよって見事に覇権を奪い返した。912号車によるあの別次元のパフォーマンスは、そんなポルシェ勢のプライドみたいなものが感じられ、見ていて心を揺さぶられるものがあった。
 KWにとっても最高の結果で締めくくれたわけだが、今まで通り謙虚な姿勢を崩すことなく、この特別な経験をKWファンにデリバリーできるよう努力をしていきたい。
 今後もKWのモータースポーツ活動とともに、アップグレードされるストリート用製品に注目していただければ幸いである。

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